「認知的柔軟性理論(Cognitive Flexibility Theory)」
社会の急速な変化の中で、現在わたしたちが直面している問題、たとえば環境問題、歴史問題、文化摩擦問題、そして教育問題などは、様々な側面が相互に絡み合った複雑な構造を持っています。このような領域では、にわとりと卵のように、一部だけ先に学ぼうとしてもまだ学んでいない別の概念を知らないと理解できないというジレンマにおちいりがちです。
そこで今回は、簡単に分解することができない、複雑で相互依存的な問題に対応するためにつくられた概念、「認知的柔軟性理論」をご紹介します。
マルチメディア・ハイパーテキスト技術が現れる前、多くのデジタル教材は、「課題分析」という方法によって設計されていました。難しい課題をいくつかの部分に分けて、簡単な順番から並び替えていくという方法です。この方法はシンプルな構造を持った問題には有効な方法で、機械のメンテナンスや単純な概念の記憶などには、現在でもこの方法が使われています。
しかし、シンプルに構造を分析できないような問題を解決するには、問題の新しいとらえ方が必要でした。このため、Spiroという研究者が1990年に提唱した概念が、「認知的柔軟性理論」です。この理論の詳細については、参考文献・URLから見ていただきたいのですが、ポイントを要約すると次のようになります。
・知識を多様な形で提示すること。いろいろな視点から様々な例を見せること。
・一つの抽象的な概念を複数の違ったケースによって説明すること。
・まず領域の複雑さを提示すること。部分の前に全体を提示し、学習者に複雑な関係を学ぶことが
必要であることを理解させること。
・知識のネットワーク状の相互関係を理解することに重点を置くこと。
孤立した知識ではなく、変化可能な関係性を学ぶこと。
・知識構築を推奨すること。学習者が自分自身の知識構造を作り出すことが、順番で記憶していく
学習との対比で重要である。
Spiroは、「認知的柔軟性理論」にもとづいて、市民ケーンという古典映画を様々な角度から分析することによって深い理解を達成するマルチメディア教材を制作し、高い評価を得ています。
また、5月の公開研究会で、NHKが開発した「マルチメディア人体」という教材をレビューしましたが、この教材の背景にも、「認知的柔軟性理論」があります。
「認知的柔軟性理論」は、現在でもよく引用される古典的理論ですが、現実の教材開発には十分反映されていませんでした。多様な例を見せるために制作コストが増加することが最大の理由です。インターネットの登場により、オープンソースの学習材も増え、多用な例を比較的低コストで用意することも可能になってきている現在、教材開発者はこの理論を真剣にとらえなおす必要があるでしょう。
現在は、複雑で相互依存的な問題を「むりやり」分解して記憶させ、「覚えているか」という表層的な測定だけしてわかったつもりにさせる教材があふれています。「認知的柔軟性理論」は、学習者の深い理解を保証するためには教材自体に厚みが必要であることを指し示しています。
いま、学習者が本当に身につけるべき力はなんであるのか、我々に自省と教材開発の方法論の再構築が求められているのではないでしょうか。
●参考文献
Spiro, R. J., & Jehng, J. C. (1990).
『Cognitive flexibility and hypertext:Theory and technology for the nonlinear and multidimensional traversal of complex subject matter.』In D. Nix, & R. J. Spiro (Eds.),Cognition,education, and multimedia: Exploring ideas in high technology (pp. 163-205). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
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●参考URL
http://www.ilt.columbia.edu/publications/papers/Spiro.html
『Cognitive Flexibility Theory』
http://tip.psychology.org/spiro.html
(第1回担当:山内祐平/BEATフェロー・東京大学情報学環助教授)
「認知的柔軟性理論(Cognitive Flexibility Theory)」
シンプルに構造を分析できないような問題を解決するには、問題の
新しいとらえ方が必要でした。このため、Spiroという研究者が1990年に 提唱した概念が、「認知的柔軟性理論」です。
ポイントを要約すると次のようになります。
・知識を多様な形で提示すること。いろいろな視点から様々な例を見せる こと。 ・一つの抽象的な概念を複数の違ったケースによって説明すること。 ・まず領域の複雑さを提示すること。部分の前に全体を提示し、学習者に 複雑な関係を学ぶことが必要であることを理解させること。 ・知識のネットワーク状の相互関係を理解することに重点を置くこと。 孤立した知識ではなく、変化可能な関係性を学ぶこと。 ・知識構築を推奨すること。学習者が自分自身の知識構造を作り出すこと が、順番で記憶していく学習との対比で重要である。
現在は、複雑で相互依存的な問題を「むりやり」分解して記憶させ、「覚え
ているか」という表層的な測定だけしてわかったつもりにさせる教材があふ れています。「認知的柔軟性理論」は、学習者の深い理解を保証するために は教材自体に厚みが必要であることを指し示しています。
●参考文献
Spiro, R. J., & Jehng, J. C. (1990). 『Cognitive flexibility and hypertext:Theory and technology for the nonlinear and multidimensional traversal of complex subject matter.』 In D. Nix, & R. J. Spiro (Eds.),Cognition,education, and multimedia: Exploring ideas in high technology (pp. 163-205). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
●参考URL
『Cognitive Flexibility, Constructivism, and Hypertext: Random Access Instruction for Advanced Knowledge Acquisition in Ill-Structured Domains』 http://www.ilt.columbia.edu/publications/papers/Spiro.html 『Cognitive Flexibility Theory』 http://tip.psychology.org/spiro.html
以上
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2024. 12.15
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2017. 08.
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Mathematik Informatik Naturwissenschaften Technik